気持ちのいい日本語
2006.10.21
金田一秀穂
・クイズ
どちらが正しい日本語? T字路 X 丁字路 ○
アボガド X アボカド ○
シュミレーション X シミュレーション ○
・正しい日本語? 通じればそれが正しい日本語
「ら」抜き言葉 食べ(ら)れる
志賀直哉は大正時代から「ら」抜き言葉を使っている。
全然〜ない 否定形でしか使わないと思っているが、否定形のみで使うようになった
のは昭和30年代。それ以前は、肯定形でも使われていた。森鴎外も肯定
で使っている。
だらしない 江戸時代は「しだらない」が使われていたが、もっとひどい状態を表現す
るのに、言葉をひっくり返して、「だらしない」という言葉ができた。
これが流行して、現在に至っている。
・言葉は変化していく。
言葉は生きているから、変化していく。変化することはいいことである。
「あざーす」---「ありがとうございまーす」の略。先取りのお礼 --- 先に言われると
やらざるを得ない。先にお礼を言った方が得。
セブンイレブンのトイレにある「いつもきれいにお使い下さってありがとうございます。」も同じ。
従って、「あざーす」も仕方がない。「おーす」は「おはようございます」を短くしたもの
「らっしゃい」は「いらっしゃいませ」、「ちわ」は「こんにちは」から短くすることは、
日本の文化の伝統を守っているといえる。
・言葉は人のidentityを作る。言葉の変化に腹を立てる人はブレーキ、若者はアクセルを踏む役これで
少しずつ言葉が変化していく。
・日本語は一つではなく、様々なシチュエーションで使いわけている。同じ相手でも変わる。相手、
状況及び自分の立場という3つの要因の中で、適切に選ばれたものが、「気持ちいい日本語」
であり、「正しい日本語」である。子供は、一通りの言葉しかできないが、幼稚園に行くと
新しい言葉を覚え、無意識のうちに、使い分けるようになる。外国語もそうだが、我々には
それがわからない。
・日本語はあいまい。
「リンゴを3つほどください」は、あいまいだが、2つでもなく、4つでもない。自然言語に対し、
logicalな「人工言語」(音符、数学等)、あいまいさがないコンピュータ言語がある。
Windows95で、「不正な処理をしたので、強制的に終了します」というようなレスポンスがあったが、
これはコンピュータ人の解釈で、我々にとっては、「不正な」とは、正しくないだけではなく、道徳的
に悪いとか法律を犯すとか、いろいろな意味がある。(自然言語)「Windowsの終了を開始します」
とか「Yahooに接続中です(まだ接続されていないのに)」というのはなにか変である。
・
正しい言葉とは相手を気持ちよくさせる言葉で、そうさせるにはどうすればよいか。
まず敬語を使えばよい。
美智子皇后陛下は敬語が大変上手。「私」「場面」「相手」によって使い分ける。
敬語とは、相手を高めることによって自分も下がる結果となるが、2つの隠れた意味もある。
@自分の教養を高める。 A相手との距離が広がる。
悪者は敬語を使う。自分を高め、威圧感を与えるのである。
言葉がぞんざいだったり、乱暴でも、よくないということはない。人柄次第。
(奥さん、美人だね、 さあ持ってけ泥棒とか、毒蝮三太夫の年寄りへの乱暴な言葉とか)
・
コンビニ敬語
「こちらコーヒーになります」「こちらうなぎになります」
もともと、「コーヒーでございます(ていねいすぎ)」「コーヒーです(ぞんざい)」という言い回しがあるが、その中間がほしいのに、その表現がなく、「コーヒーになります」となった。日本語の共通語は、まだ歴史が浅く、未完成。関西では「コーヒーでおます」という中間の表現がある。コンビニの「になります」もある意味では仕方がない。コンビニ以外でも、「あちらが出口になります」とか使う。出口の前は一体なんだったのか。(会場から、それは入口だったとの爆笑コメントあり)コンビニもほとんどアルバイトでコミュニティーではないので、やむを得ない。ファミレスで、「お水の方、大丈夫ですか?」とか、カード払いの際、「1回で大丈夫ですか?」もおかしい。
・ お互いに通じる仲間内の言葉(それ以外の人にはわからない)、仲間以外の人とそう話すのはNGだが、仲間言葉はそれも気持ちいい言葉である。
野口英世のおかあさん(読み書きができず、年をとってから子供に手紙を書きたくて小学校に通った)の手紙、文章も下手で、小学生の文章であれば0点であるが、心がこもっているので、心を打つのである。